夏支度の教え

2015-08-08

ツユクサの花が咲き始めると、夏はすぐそこ と 誰かの言葉を思い出し

いそいそと夏支度始めるのです。

五月中旬 祭り前、 障子戸から簾戸へ、絨毯は夏用竹のうすべりへと替え 床の間の掛け軸も 掛け替えます。

夏支度を始めようかと思いたつ頃 脳裏をかすめる思い出は 東京下町夏景色。

母の実家があった 東京都北区堀船(王子)です。

私が生まれた所で 小学校入学前まで 住んでたところです。

最後の都電が走る下町情緒溢れるところです。

私は 小学校入学前に、父の故郷 茨城県水戸市に引っ越しました。

母は私と妹・弟 三人を連れて休みになると 東京に 里帰り。

母は 実母を早く亡くしてたので お墓参りと称して

春休み・夏休みと 子供の休みを待つかのように実家に帰ってました。

小学校四年生の夏休みから 東京行きは一人旅になるのですが、

それは十才違いの弟が生まれたからです。

水戸駅まで見送る母は 子供一人の東京行きを 丁寧に駅員さんに頼むので

見回りの度 親切に声をかけてくれて 乗客の人たちにも見守られての愉しい時間でした。

終点上野駅 ホームに近づくと 祖父の姿。うれしくて電車からホームへは大きくジャンプです。

上野駅から京浜東北線の青い列車に乗り換え、

王子駅に降り、早稲田方面からくる黄色の都電に二駅乗ると梶原商店街。

知り合いに「夏休みだね!」と声かけられながら 祖父の家。

垣根には 数十を超え百以上あっただろう 今朝咲いてつぼんだ朝顔が出迎えてくれる。

明日の朝から数えて日記に記すぞぉと やる気を思い起こさせてくれる垣根です。

玄関前には打ち水。

(母にとって二度目の母になる)祖母が 冷蔵庫から麦茶を出してくれて

祖父が団扇で風を起こしてくれて よくきたと 嬉しそうに話を聞いてくれる。

一息入れた後、 滞在中の私の部屋に荷物を置く。

再び戻ると 定位置に祖父母二人がそれぞれ団扇で風を仰いでいる。

廊下越しに風が流れてくる。 風鈴の音色。ちゃぶ台の上には かき氷。

私が荷物を片づけしているうちに 祖夫母のどちらかが近所のお店に器を持っていき用意してくれたのです。

次の日からは 一日一回 自分が食べたい時に器を持って

かき氷を作ってもらう。それがまた 楽しくて嬉しい。

和室の長押に飾られた 巨大な煙突の写真を見て尋ねた事があった。

祖父が手掛けた満州の煙突だと聞かされた。

その時はそれ以上興味を持たなかったが

晩年 叔母から 建設業の請負・現場管理の仕事をしていて たくさんの人を使い大きな仕事をしていた事を聞かされた。

(若い頃 仕事も遊びも豪快な祖父は 先妻を亡くした後 芸者さんの祖母と一緒になった事も)

小学生の私は 祖父母が大好きで 祖父母の家が居心地がよかった。

私が 高校を卒業して 東京の学校を選んだのも 親が安心するからの理由よりなにより

祖父母の住まい方が好きだった。

ご近所さんが 祖父母や父母を知り

○○○さんとこのお孫さん、○ちゃんとこの長女さんだね!と 言われる心地よさ。安心感。

祖父母は 簡素で身の丈に合った家で心地よく過ごしていた。

独りよがりになる事無くご近所さんにたいしても丁寧だった。

静かで粋だった。真似したいと思うがなかなか難しい。

祖父母に 夏支度の教えを乞うたとしたら 静かに笑うだろう。

「宿題は 自分で考えたら 宝になる」 と言われたことも思い出す。

老夫婦の住まい方は これまでの人生の生き方を静かに描いていたのかもしれない。

感性を大切にする事。

朝顔、打ち水、団扇、風鈴、かき氷、盆踊り、花火、浴衣、冷やしうどん、

キーワード満載。とびっきり粋に 自分らしく 夏を楽しむ事。   (平成二十七年八月八日)